児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

給食〜好き嫌いの話〜

学校では、昼食は給食です。アレルギーがある子を除いて、学校のみんな一律同じものを食べます。栄養バランスも考えられ、値段も安い。私個人は、こんな良い昼食はないと思っています。

教員は給食時間は「給食指導」を行います。手を合わせて挨拶して食べる。食べ物に感謝して食べる。マナーを守って食べる。残さず食べるなど、教員も食事しながら指導を行うのです。

 

 

しかし、私は給食指導が嫌いです。ゆっくり食べられないし。

 

好き嫌いなんて人間に生まれた以上誰にでもあるし、無理して食べさせて、余計に嫌いにさせてもいけないかな、と思います。

 

ただ一方で、嫌いなものでも、「これ、ムリ!食べたら吐く!ムリ!」みたいなリアクションすることは、その子にとって損だと思っています。

考えてみてください。誰かとご飯を食べているとき、「嫌いだから」と全部残されてみてください。大人でそんなことする人は少ないとは思いますが、作った側から見たらがっかりですよね。それが、好きな人との食事であれば、確実に嫌われます。

 

 

それでも、嫌いなものは嫌いだし、理屈なんてないので、どうしたもんかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、アレルギーがなく、ただ嫌いな食べ物がある子にはこう指導していました。

「嫌いなのはしょうがないけど、全く食べないのは、栄養を考えて作ってくれた調理師さんや栄養士さんに失礼だよ。家で好きなもの食べるのはいいとしても、学校は公共の場。こういうところで食べる時は、食べれる量まで減らして、お皿を空にして返すのが礼儀です。手をつける前に減らしにおいで。もうめっちゃダメムリ!ってやつなら、一口でいいから食べて、その食べ物のどんなところが嫌いなのか、考えてみて。」

 

最初は嫌がられます。でも、これを繰り返しているうちに、成果は出ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピソードをひとつ。

 

私が受け持ったA君は魚が嫌いで、今まで一口も食べることができませんでした。もちろん、アレルギーなんてありません。

その子に、一口でいいから食べるよう、作ってくれた人に感謝していただけるよう、指導を続けました。

確か、3学期のこの時期だったと思います。給食のお皿にイワシの蒲焼が乗りました。あ、A君、また一口で終わるんだろうな、と思っていました。すると、A君は、イワシの乗った皿を持ってきて私にこう言いました。

「先生、おれ、食べてみる。なんか今日イケる気がする!」と。

お、おう。でも、無理したらいけんよ。吐くまで無理したらいけんよ。ギブは早めにね。と伝えると、A君は席に戻り、魚を食べ始めました。決して美味しそうに食べているわけではなく、黙々と、真剣に食べていました。そして、A君は魚を1人分、完食しました。

すごい!A君頑張ったねえ!と褒めると、A君はニコニコしながら、こう言いました。

 

「先生、魚食べたから、この野菜、残していいですか?」

 

なーるほど。そういうことか!と爆笑してしまいました。A君は野菜も苦手なんです。まあ、ひとつ克服できた努力を讃え、次は野菜も食べるんだよ、と言っておきました。A君は「えー」といいながらも、満足げな表情でした。

その日、学年中に「A君が魚食べた」情報が蔓延し、いろんな友達に褒められたA君は愉快に帰って行きました。

次の日の連絡帳に、保護者から「Aが魚を食べたそうで」と私の指導に対するお礼が書かれていました。私は「A君は、自分から魚を食べると言いました。A君の頑張りのおかげです。私は何もしていませんよ。保護者の方がA君をのびのび育ててくれているから、成長したのだと思います。これからも、ご協力よろしくお願いします。」

 

 

めちゃくちゃすごい成長でもないし、なんならマイナスがゼロになったくらいのことではないか、と思う人がいるかも知れません。でも、これをきっかけに、子どもが何か感じとってくれればいいな、と思っています。何も感じていないかも知れませんが。

 

 

 

 

 

好き嫌いがあること自体は当然のことです。でも、そこでどう対処するか、どう立ち振る舞うかは、大人になってからも大切です。そこを教えるのが、公教育に求められることかと思います。

親だけで躾けることはできますが、親だけでは難しいときもあります。そういう時は、教員に相談してください。