児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

泣いた話〜生きるということ

 


(今回の話は、施設入所中の記憶を辿りながら、ふと考えたことである)

 

 

 

高校の時

何が理由だったかはわからない

どんな経緯だったかはわからない

だけど

指導員室の横の

宿直の先生が寝る部屋で

「にいちゃんがしっかりせんといけんと?何で俺ばっかりこんなに背負わないといけんと?きつい。つらい。苦しい。」

涙を流しながら話をしたことがある

当時担当だった先生は

泣きじゃくる私の背中をさすり

ただただ聞いてくれていた気がする

 

 

 

幼い頃

母が父と離婚して間もない頃

私に

「ヨウがお父さん代わりになるね。」

と話された記憶がある

 


私はその言葉に応えようと

一生懸命努力した

3人兄妹の長男として

父の代わりとして

弟妹の手本として

勉強をし、部活をし、

非行に走ることもなかった

努力した結果

私は母の薬を飲み

死ぬことを考えた

 

 

 

あの頃

 


もし私が非行に走っていたら

母は自殺どころではなく

弟妹に手を出していたかもしれない

 


もし私が勉強をしていなかったら

大学はおろか高校進学さえも

叶わなかったかもしれない

 


もし私が弟妹がいなかったら

ここまで頑張ることは

出来なかったかっもしれない

 


もし私が施設に拾われなかったら

大学進学を断念し

誰も幸せにならない家族が

ひとつ出来上がっていただろう

 


もし私が薬を飲み死んでいたら…

 

 

 

死ななかったことを含め

今こうして

仕事に就き家庭を築き

私が幸せな生活を送ることができたのは

本当に

ただの偶然である

 


普通に学校に通い

普通に仕事して給料もらって

普通に恋愛して結婚して

普通に子どもが生まれて

普通に家や車を買って

普通に連休に旅行に行って

普通に生活する

 


何と難易度の高いことか

 


しかも

そういう風に生きていくためには

たくさんの情報が必要である

閉ざされた空間で

視野を広げることなど出来ない

 

 

 

世の中には

「家族」という狭いコミュニティーの中で

大人の言動に巻き込まれ

本来悩む必要のない事象で

苦しんでいる子どもたちが大勢いる

 


その原因や経緯は

100人いれば100通りで

解決できる方法に公式はない

その子の抱えていることは

重さや質などでは測れない

人生をかけた苦悩である

 

 

 

当時の私は

父の代わりとして

しっかりすることが

生きていく上での条件だった

そのおかげか何か分からないが

弟妹は

「兄ちゃんがいたから、俺ら頑張れたんよ。」

という言葉に救われている

有難い話だ

しかし

私がこの使命を抱えたまま

社会的養護に救われなかったら

また同じように薬を飲み

自ら命を絶っていたのかもしれない

 


私自身、今は幸せだが

母のことや仕事のことで

悩み続けている

生きている限り

何かにストレスを抱えたり

何かに悩んだりする

生きていれば必ずいいことがある

という言葉は間違っている

それでも人間は生きているのだ

 


生きているから悩み

悩んでいれば言いたくなる

言えば誰かが手を差し伸べてくれる

誰かが手を差し伸べるから喜び

人として豊かになる

困ってる人がいたら助けて

その人の言葉に元気をもらい

一緒に楽しみを共有する人がいれば

分かち合って大声で笑う

悩み苦しむ前の心の準備をして

挑戦して失敗して

いつか成功するその日まで

心の充電を切らさないように蓄えて

挑戦してエネルギーを消費して

新しい機能を備えていく

そうやって

もがきながら少しずつ強くなって

人間は生きていく

その中から幸せを見つけ

それを糧にする

 


生きていれば必ずいいことがあるのではなく

生きているからこそ

いいことを見つけることが出来るのだ

 


私は

運に恵まれ

こうして無難に生活しているが

果たしてこれが

本当の幸せかどうかも疑問に思っている

 


ただ働いて給料をもらって

家族を養うことは

必死で正しい努力を積み重ねさえすれば

誰にだってできる

 


でも

私にしかできないことも

あるのではないか

私の経験が

特定の誰かの救いになったり

私のスキルが

特定の誰かを助けることができるかもしれない

私だからこそ

聞いたり教えたりできる話があるかもしれない

それが何なのか

模索してる

 

 

 

 

 

 

 

 

 


飲んでいるビールが

だんだんとぬるくなってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局何が言いたいのかというと

 

 

 

 


施設や里親で生活している子

あるいは

家族や学校のことで悩んでいる子

 


その子らに言いたい

 

 

 

 


逃げてもいいし

抱えてもいいし

ダメなまんまでもいい

その代わり

 

 

 

 

 

死ぬなよ

 


世界は広いぜ