児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

アルバイトの話

 

私は推薦入試が終わり

センター試験に向けて勉強していた

 


きたる合格発表は

センター試験の1ヶ月ほど前だった

私は職員室に呼ばれ

担任と一緒にパソコンの画面を見た

そこには

私の番号が書かれていた

学年の先生たちは

自分のことのように喜んでくれた

やった

その番号をプリントアウトしたものを

施設に持って帰った

それを見直すと

あの時噴水で話した学生の番号もあった

また一つ安心した

 


施設の方はみんなで喜んでくれた

とりあえず進路が決まった

 


私は

就職組ではないため

自動車学校には行けなかった

金銭面の制度がなかったらしい

返還不要の奨学金をもらうべく

作文をいくつか書いたりした

そのおかげで軍資金ができた

大学への準備だ

 


そんな中

それでも不安があったため

アルバイトをしたいと考えた

施設ではアルバイトを認めていたが

私の高校は

アルバイト原則禁止だった

高校生が短期でできるアルバイトは少なく

居酒屋などがメインだった

 


私は高校の先生に掛け合った

大学に行くのに

親から支援は得られない

それまでの間

少しでも資金を工面したい

大学が決まった以上

そこから先は準備の時間にあてたい

 


学年主任の先生は理解してくれた

そして

「じゃあ、おれに知り合いがいるから、そこで働くのはどう?俺の知っているところなら高校としても安心だし、お前も働きやすいやろう。紹介するよ。」

私は

デパートの一角の喫茶店に連れていかれた

そこに

恰幅のいい明るいおじさんが来た。

おじさんから名刺をもらう

地元で有名な蒲鉾屋さんの会社の

社長と書かれた名刺だった

 


社長?!

 


この子?先生が紹介したいのは。

そうなんですよ〜お願いします。

北高でバイトする子なんて聞いたことないねえ。なんでまたバイト?

実はこいつ、施設にいて、推薦で大学決まったっちゃけど、資金の準備したいっていっとっとよ。

そうか!えらいねえ!

しかもこいつ、うちの副会長やっとったさね。

へええー!立派だこと!

なんとか短期でいいけん雇ってくれんやろか?

年末のお歳暮シーズンは、猫の手も借りたいくらい忙しいっさね。だからウェルカムよ!明日からでもおいで!

明日から模試が続くけど、お前は受ける必要ないし、バイトしたらいいよ。そんかし、センターは受けんばよ。

よっしゃ、じゃあ、明日からよろしくね!汚れてもいい格好で来てくれたらいいから。エプロンは貸すよ。仕事は店長に教えてもらおうね。

 

 

 

あ、はい。

とだけ返事をした

私が話すことはほとんどなく

物事は進んでいった

同じデパ地下の店舗に連れていかれ

説明を受け

明日から働くこととなった

 


言ってみるものだな

相談してみるものだな

つくづくそう思った

それと同時に

周りの人にいかに助けられたか

ありがたかった

 


アルバイトは当初

年末年始に限定したものだったが

仕事ぶりと接客の良さから

3月に卒業した後

1ヶ月ほど短期で働かせてもらった

 


資金繰りもできたが

仕事を体験できたのは大きかった

仕事のやり方を聞き

言われたことを頭に入れて

あくせく動く

お客さんにありがとうと言われ

お店の人に褒められ

忙しくて目が回りそうになり

その日の売り上げを聞いて驚き

その都度達成感があった

仕事の大変さと責任を感じた

 


施設を退所する日

私は

はじめてもらった8万円程の給料明細を

財布の奥に大切にしまっていた