児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

後夜祭の話

 

私の母は

長渕剛のファンだった

子どもながら

時代錯誤も甚だしい長渕を

延々聞いていた

 


その後、父の勧めもあって

ギターを弾いていた

下手くそなのに声だけやたら大きい私は

近隣に聞かれ

「昨日、コンサートしてたね。」

などと冷やかされていた

 


施設に入っても同様だった

 


私の唯一癒される時間が

ギターで弾き語りをしている時だった

好きなミュージシャンの曲を

自分の手で演奏し

歌っている

なんて幸せなことでしょう

それが生きがいだった

施設のクリスマスプレゼントで

コブクロのギター弾き語り全集が欲しい」

とわがままを言い

買ってもらった記憶がある

ギターは私の自尊心だった

 

 

 

高3の夏頃

「後夜祭のステージに出演しませんか」

という話があった

 


舞台でダンスをしたり

楽器を演奏したり

歌を歌ったり

生徒会主体で開催されるイベントだ

 


私はステージに立ってみたいと思い

当時仲の良かった友達に声をかけた

「楽しそうじゃん。やろうや。」

と出演することが決まった

決まらなかったのは

演奏する曲だった

 


私たちは

声質や演奏能力から

私たちは高度なパフォーマンスができない

 


そこで私は

「曲を作ればいいのではないか」

と考え

その友達と一緒に歌える曲を書いた

 


それを夜の公園で披露した

その友達は言った

「めっちゃいいやん。それ、しようや。」

 


後夜祭にはオーディションがあった

とはいえ、参加者自体少なく

どんなことするか確認して

順番を決めるくらいのものだった

 


バンドやら上手な人たちもいて

すごいなあ

かっこいいなあ

とか思いながら

そのオーディションで私たちは

コブクロのコピーと

オリジナルソングを披露した

演奏を終え

聞いていた人たちから

「すごいね!それ、作ったん?!」

と言われ、拍手をもらった

先生方も褒めてくれた

 


こうして私たちは

後夜祭で

オリジナルソングを演奏することになった

 


リハーサルの時

たまたま近くを通った人らが

聞いたことのない私たちの歌を聞いて

歌詞をふざけて繰り返し

小馬鹿にしていた

私はとても恥ずかしかったが

相方が

「いい曲やろー。本番楽しみにしとって!」

とその人らに言った

ありがとう

 


当日はとても気持ちよかった

大勢の人が私たちを見ている

手拍子をくれる

2人で夜の公園で練習したハモり

相方は間奏でハーモニカを吹いた

人前で初めて演奏する曲

私が書いた歌詞とメロディーを

高らかに歌う相方

私のギターに合わせて鳴り響くハーモニカ

演奏中の記憶は全然ないが

1つだけ覚えている

私が最後の歌詞を歌い上げ

演奏が終わる間際

ミュージシャンがやるのを真似して

「ありがとーーー!!!」と

大きな声で叫んだ

それに呼応するように

観客がワッと湧いた

 

 

 

スポットライトの光に照らされ

逆光で観客の姿はあまり見えなかったが

歓声に包まれたことは確かだった

 

 


この曲は

放送部が作った

高校の振り返るムービーの中の

一場面のBGMとして使われた

 


私は

「将来、こういう仕事もいいのかな」

と思い

高校卒業したら

九州一の繁華街の福岡で

ストリートライブをしたいなあ

 


福岡県に進学することを決めた

 

 

 

 

 

 

ちなみに

 


後夜祭で

演奏を終え

「ありがとうございました!」

と言ってピックを投げてステージを降りた

後夜祭の片付けが始まろうとした頃

生徒会の後輩が駆け寄ってきた

「先輩、ピックが落ちてたそうです!」

投げたピックが渡された

 

 

 

 


いや違う

それは

落としたんじゃないんだけど

てか

誰か持って帰ってくれよ

 


相方と爆笑した

 


私たちはあくまで

モテない高校生だった