児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

進路選択〜祖父の死

私は

福岡で

小学校の教員免許を取れる大学を探した

 


私立の大学は授業料が高く

母から支援をもらえない以上

国公立しかない

 


それなら

福岡教育大しかない

 


私はこの大学で希望を出した

幸い

進研模試の結果はA判定

大学に行けそうな気持ちに安心した

 


担任に呼ばれた

「広島大受けたら?B判定だし、十分狙えるよ。それに、福教大いくくらいなら、長崎大の方が家から近いし、経済的にいいとおもうよ。」

 

 

 

私は断った

福岡教育大で、と

 

 

 

担任としては

少しでも上の大学を狙ってほしいという

意図なんだろうが

私は福岡に行きたかった

 


担任とは押し問答になっていた

私は福教大の推薦入試も受けたいと申し出た

それもあり

志望校は決まらないでいた

 


私としては

確実に受かる方がいいし

リスクヘッジしたい

受ける回数は増やしたいし

福岡に行きたい

 


私は推薦入試を受けさせてもらうべく

「じゃあ、福教大の推薦受けて、ダメだったら広大目指して真面目に勉強します。だから推薦受けさせてください。」

 


そんなこんなで

推薦を受けることとなった

 


私の受ける推薦入試の形式は集団討論

他の推薦入試を受けるメンバーは個人面接

私たちは個人面接を中心に練習をしていた

 

 

 

推薦入試の勉強をし出してしばらくして

母から「じいちゃんが危篤だ」

と聞かされた

 

 

 

 


私たち兄弟は

母のところへ外泊し

じいちゃんのいる病院へ向かった

そこにはばあちゃんと

伯母さんがいて

暗い病室のベッドの上

じいちゃんが寝ていた

鼻の穴には管が繋がれて

無理やり生命延長している

そんな感じだった

 


昔、両親が離婚する直前まで

家ではなく、祖父母の家に下校していた

長い坂の続く住宅地の中

小学一年の体には答えた

玄関を入るとすぐに爺ちゃんの部屋

いつもテレビを見ていた

とても威厳のある人で

あまり沢山喋らなかった

夏休みの宿題で

漢字がわからなくて

じいちゃんに聞いたことがあった

思い出といえば

その程度だ

 


ここ2、3日が山だと聞かされ

施設へ帰った

 


高校では相変わらず面接の練習

試験の日は近かった

 

 

 

試験の2日前

午前中だったと思う

高校の先生に呼ばれた

「おじいさんが亡くなったそうだ。親戚の方が迎えにくるから、支度してきなさい。」

学生服のまま、通夜の会場へ向かった

 

 

 

通夜にはたくさんの人がきた

母は9人兄弟の末っ子で

それなりに親戚がいたようだったが

誰が誰だかわからなかった

 


翌日は葬式

試験の前日だった

初めて、人が焼けた後の骨を見た

母は、灰と骨だけになったじいちゃんを見て

涙を流していた

そりゃそうか

自分の父親だもんな

もし

おれの父さんが死んだら

涙が出るものなのかな

疑問に思った

 


久しぶりに父さんに会いたくなった

 


葬式が終わり

会食の場に行った

高校の制服を着た私に

顔も知らない親戚が声をかける

 


今何年生?

高3!?じゃあ受験生やね

えー!明日試験なの!

きっとおじいちゃんが見守ってくれるよ

がんばらんばねー!

応援しとるけんね

 


おれらのことをロクに知らない

よく知らない親戚の言葉に

ありがとうございますと言った

贅沢な食事を食べながら

たくさんの人に声をかけてもらった

あまりしたことのない経験だった

 


帰り際

心の中で

葬式に来ていたたくさんの人に

だんだん腹が立ってきた

この人らは

おれらがどんな生活して

どんな思いでここにいるか

知ってんのか

こんだけ人がおって

誰も助けてはくれんかったんか

所詮そんなもんか

怒りを通り越して

呆れていた

 


施設に戻り

宿直の先生に

「試験直前に大変やったな。お疲れさん。」

と言われた

本当に気疲れした

 


その夜

じいちゃんのことを考えた

じいちゃんは市役所の職員で

9人の子どもを育てた

戦争でアメリカに行き

腹に銃弾を受けて

負傷者として帰国した

ばあちゃんは五島に疎開していて

被曝せずに済んだ

それがなければ

母は生まれていない

母がいなければ

私たち兄妹は生まれていない

そう考えると

私たちが生まれたのは偶然で

そして

私たちが過ごした時間も

また偶然だろう

偶然が重なって

今日があるんだな

 

 

 

何考えてるのか意味がわからなくなった

そんなことどうでもいいな

そう思った瞬間

眠くなった

明日は試験だ

福岡へ行くぞ

早起きせねば

 


眠りについた

 

 

 

次の日の朝

宿直の先生方に見送られ

福岡県へ受験に行った