児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

大学受験の話

朝早くに

私はいつもと違うバスに乗り

普段使わない特急電車に乗った

1人で他県へ行く

初めての経験だった

早朝だからか

指定席はガラガラだった

荷物から試験対策ノートを出し

しばらく眺めた後

すぐに飽きて窓の外を眺めた

 


海が見えた

遠浅の眺めのいい景色

異世界にいる気分で

また新しい世界に進むことができる

未知の都会に向かって

期待と希望と興奮を胸に

青く広がる景色に見とれていた

 


博多駅に到着した

駅は改装中で

これからさらにおおきくなるとのこと

わたしを迎えてくれているような気がして

ただただ嬉しかった

 


受験は昼からだったため

かなり時間に余裕があった

私は各駅停車の電車に乗り

教育大前なる駅を目指した

電車は対面のシートで

座ると反対側の窓が見える

特急の時と打って変わって

高架を走る線路よりも

はるかに背の高いビルやマンション

私はここ踊った

さあ、都会に来たぞ

 


聞き慣れないJR線の駅名に耳を傾け

私は好きな本を読んでいた

推薦入試に向けて心を落ち着けよう

 

 

 

しばらくして

今どこなのだろうと

顔をあげた

すると

見渡す限りの田んぼ

 


え?

 


ここ、福岡ですよね、、?

 


後ろを振り返っても田んぼ

おかしい

私は都会に来たはずなのに

もう少ししたら

また栄えた街にでるだろう

そう思った頃

目的の駅に着いた

いや

まだ田んぼ

あれ

到着したところは

私が住んでいた街よりも

遥かに田舎だった

しまった

リサーチ不足だ

私はとぼとぼと大学の構内に向かった

 


中庭に着くと

水の出ていない噴水があった

そこに1人腰掛ける

周りは親と一緒に来ている学生が多く

なんだか疎外感を受けた

まあ

私は1人で来るくらい

しっかりしているんだと

心に言い聞かせていた

 


そのうち

同じ噴水に

1人の学生が座った

同じ受験生なのだろう

お互いに1人だったこともあり

声をかけた

同じ学科を受験する学生だった

私たちは受験番号も近く

地元のことや試験のことを楽しく話した

少しリラックスできた

私たちは同じグループで受験をした

手応えは十分

ただ

倍率が高かったことと

選考基準がよくわからなかったため

不安はあった

 


帰りの電車では

殆ど寝ていた

1日が全部刺激的で

施設に戻った時

職員に「どうやった?」と聞かれた

私は素直に

「楽しかった。」と言った

「出来はどうやった。」

「よくわからんけど、楽しかった。友達ができた。」

「変なやつやな。試験なのに楽しかったって。まあ、おつかれ。」

 


なぜ楽しかったのか考えた

1人で電車に乗って

都会に行って

都会かと思いきや

田んぼが広がっていて

受験でいろんな県から

いろんな学生が来て

1つの大学で

意見を交流させた

試験ではあったが

私の意見を受け止めてもらえた

そして

いろんな人の意見を聞けた

 


今まで

自分の意見というものはなく

生きていくために

何をしなければならないか

そればかりだった

それが

私自身の目標に向かって

少しずつ動き出した

 


何を「しなければならないか」から

何を「していきたいか」に

シフトしていっている

その過程の中で

進んでいるような

そんな感覚なのかもしれない

 


私は

試験の結果とはまるで関係のない

これからの未来に思いを馳せて

眠りについた

 

 

 

まだ合格すらしていないのに