児童養護施設から自立した話

児童養護施設出身の筆者が綴る大したことのない日常の話

一時保護とは~島根県安来市の事件に学ぶ~

また、児童虐待に関する悲しい事件が起きてしまいました

 

www3.nhk.or.jp

 

亡くなった増田陸さんの、ご冥福をお祈りいたします

 

 

 

さて

今回の事件で注目したいことは

「一時保護解除後1週間で、事件が起きた」

という点でしょう

 

 

そもそも、皆さんは「一時保護」についてどれくらいご存じだろうか?

ネットを見てみると、「児相に連れ去られた」「一時保護は地獄だ」なんて言葉も見受けられます。親子の関係を強制的に切り離す行政の対応に、一般の方々が疑問を持つことは何も不自然なことではありません。そりゃ、一時保護なんて、意味わからないし、残酷だと思って当然ですよね

 

 

現職の児童相談所職員の私から、簡単に一時保護について解説していきたい

 

www.mhlw.go.jp

 

これを読めばいいんですけど、わかりにくいことも多いので、ざっくり説明します

 

 

 

 

~基本的な流れ~

①職権による一時保護

  虐待されているかも?という情報が児相に入る

   ↓

  当該児童やその保護者に関する情報収集を実施し、安全確認をする

   ↓

  周辺情報から、虐待の有無、虐待の重症度を判断し、会議

   ↓

  虐待有と判断されれば、親の同意なしで一時保護

   ↓

  一時保護し、安全確保したうえで、保護者に連絡

   ↓

  児童のための環境整備、虐待再発防止の指導を実施し、改善されれば家庭復帰

  長期的な親子分離が必要となれば、児童養護施設等の措置を提案

 

  まず、どこかしらから、「子どもが虐待されているのでは?」という情報が入ります。虐待有と判断されれば、児相は職権で一時保護できます。

 

 

②保護者の訴えによる一時保護

  保護者から、子育てに関する相談を受ける

   ↓

  親子分離の必要性(そのままだと虐待につながらないか等)について、会議

   ↓

  保護者の同意のもと、一時保護

   ↓

  児童のための環境整備の指導、行動観察を実施

  原因がわかれば、その改善を行う

  長期的な親子分離が必要となれば、児童養護施設等の措置を提案

 

 

③警察による身柄付き一時保護

  警察によって児童が保護された際、虐待の可能性があると判断された場合、警察署ではなく、児相で一時保護を行う。

 

 

ざっとこんな感じです

 

 

 

 

~一時保護のきまり~

児童相談所の決定として、必ず会議決定して一時保護を行う

・最終的に、保護者に一時保護の同意をとる

・一時保護期間は、原則2か月以内

・通学は原則禁止

・保護者との面会は、児相職員の許可があったうえで、児相職員の同席のもと行う

 

まあ色々あるんですが、一時保護はあくまで児童の安全確保が主目的なので、児童が外部から影響を受けるような事象を排除する対応をします

ややこしいようで、目的は割とシンプルです

手段や方法はたくさんありますが

 

 

 

 

児童相談所の基本的なスタンス~

保護者や児童の感情ではなく、あくまで児童の利益が最優先なので、「会いたいから会わせる」ということはしません

児相は、児童が健全に養育できる場所に帰すという方向で支援や指導を実施します

 

 

 

 

~正直な感想~

一時保護は、親子分離という、家庭に強い影響を与える行為なので、児相としては、積極的にしたい行為ではありません

また、施設等措置は、原則として、親権者の同意が必要です

親権者との交渉が決裂して、尚且つ家庭復帰が危険な場合は、児童福祉法第28条の元、裁判を行います。しかし、これも児相としては積極的に実施したいものではありません

 

今回の島根県安来市での一時保護は、原則を越えて、2ヶ月半一時保護をしています。ということは、親権者との交渉が難航していた可能性が考えられます。関係機関と繋ぎ、児童の見守りの手を増やし、家庭での養育が可能な状況にした上での家庭復帰と判断したと想像するのが自然でしょう。

しかし、この判断が正しくなかったと言えばそこまでです。島根県中央児相は、今回の件を真摯に受け止め、再発防止のためにリスクマネジメントのやり方を見直すべきだと考えられます。

 

児相の支援の中で、確実に正しい支援というものは存在しません。児相は、子どもの声を聞き、家庭状況を把握し、可能な限り支援をした上で、子どもの処遇を決定すべきです。ですが、今回のように適切な支援や指導が行えなかった事実がある以上、私を含め、全国の児相は、現在関わっている家庭で、もしものことが起きないかどうか、再考すべきだと思います

 

ただ、実際の所、報道発表の内容のみで、児相の動向の批評することは難しい。その家庭の詳細な状況がわからない以上、外野がとやかく言うことはできないでしょう。

 

 

 

 

 

私個人としては、児童虐待について、より多くの人にもっと知ってもらいたい、と思っています。未来の社会を作るのは、今の子どもたちです。子どもの教育に、福祉に、もっと投資できる日本社会になったらいいなあ。